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窓外のできごと
深夜1時。外で大きな話し声が聞こえる。
起きてベランダの窓から下を見ると、酔っ払いと思しきおじさんが、4車線のバス道の真中で両手を広げ、走行中の車に通せんぼ。
タクシーを止め、避けられると次の乗用車を止める。「なんで止まるねん。轢けや〜。俺は死にたいんや。」
言葉の内容とは裏腹に、妙にゆっくりはっきり落ち着いた、ちょっと陽気な声。コミニュケーションを求めているようにも見える。
ドライバーのたしなめにも耳を貸さず、今度は反対車線に小走りで飛び出す。
これはちょっとアブナイ、通報しないといけないかと思ったところへパトカー。
「なにしとるんやーっ!!」警官のひとりが怒鳴り、もうひとりの警官と一緒に暴れるおじさんを抑え、やっとのことで歩道側へ寄せる。
おじさん、はげしく抵抗。「そらわしは年寄りや。せやけどお前ら若いもんに何がわかる?」
相手が何者かわからないため警戒、威嚇していたお巡りさんもやや声のボリュームを下げ、「ほんならこんなことせんとってください。」
「わしは死にたいんや。死ぬのはわしの勝手やろ。」「こんなとこで死んだら、轢いた車の方が迷惑やろ!?」
映画のように明瞭なセリフが静まり返った深夜の住宅街に響く。
お互い説得力があるようなないような不思議な会話のやりとりのあと、おじさんはパトカーにドナドナされて行った。
おそらくお酒の力で気が大きくなっていて、素面に戻ったとき自分のしたことを知って蒼ざめるのだろうけど、
なにかよっぽどのことがなければ、ここまでの行動には出ないと思う。だって、そんな悪そうな人には見えなかった。
このご時世、思い浮かぶのはリストラ、家族の冷たい視線や言葉。もしくは退職後の無用の長物扱い・・・勝手な想像だけど。
存在の尊厳を否定されると誰しもヤケになる。どんな人でも人生に一度はそんなときがあるのかもしれない。
自分の人生経験はまだ浅いけど、今はもう鬼籍に入った何人かの縁者が見せてくれた生きざまからそんなふうに思う。
その状態のまま人生を終わらせてしまう人もいるし、そこから這い上がって穏やかに旅立つ人もいる。
おじさん、きっとカラカラやったんやねぇ。怪我せんでよかった。きっとなんかの力に守られてたんやね。
私にはわからへん辛いことがあるんでしょうけど、今が底かもしれへんよ。なんとか這い上がって、しあわせになってー。
それにしても警察がすぐ来て対処してくれてほっとした。たのもしかった。
県警にフ ロントラインパトロール隊(通称:FP隊)が発足してからとても心強い。
アクシデントが多いこの近辺の道路も、しょっちゅうパトカーが見回ってくれている。
お巡りさん、本当にご苦労様です。
一歩間違ったら大変なことになってたというのに、悠長なこと言ってどうもすみません。
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